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NISAと長期・分散投資の基本
NISA(少額投資非課税制度)は、投資で得た利益が非課税となる制度であり、長期的な資産形成を支援する仕組みです。長期投資では、低コストで分散された商品に定期的に投資(ドルコスト平均法)することが重要視されます。低コストなインデックスファンドへの積立投資は、時間を味方につけて複利効果を最大化しつつ、市場の値動きによるリスクを平準化する効果があります。これから資産投資を始める医師であれば、長期運用に適した国際分散投資を行うことで、世界経済の成長を享受しながら安定的に資産形成を図ることができます。
eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)の概要と特徴
eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)は、世界中の株式市場に分散投資する低コストインデックスファンドです。ベンチマークはMSCIオールカントリーワールドインデックスで、先進国23ヵ国・新興国24ヵ国、約2,760銘柄で構成されています。地域配分としては米国株の比率が約62%と最も高く、次いで日本約5%、英国約3%、カナダ約2.7%、フランス約2.5%など、合計47の国・地域に投資されています(2024年10月時点)。このように全世界へ分散投資が可能であり、世界経済の成長に伴う株式の上昇を広く取り込めるファンドです。
コスト面でもオールカントリーは業界最低水準の信託報酬を掲げており、購入時手数料や解約時の信託財産留保額も0円です。運用管理費用(信託報酬)は年率0.05775%以内(税込)と極めて低く設定されており、他の同種ファンドと比較しても非常に低コストです。実際、金融庁の積立NISA対象ファンド平均信託報酬(約0.236%)と比べても大幅に低い水準であり、長期投資でコストを抑える効果は大きいと言えます。なお、信託報酬以外の諸経費も含めた総経費率は約0.11%程度となっており、後述する米国株式(S&P500)ファンドの総経費率(約0.10%)と比べてわずかに高いものの、いずれもほぼ0.1%前後と僅差です。
オールカントリーは長期資産形成に適した商品か?
結論から言えば、eMAXIS Slim オールカントリーは長期の資産形成に極めて適した運用先だと評価できます。その理由を、長期・低コスト・分散・積立という観点から整理します。
- 長期的な成長性: オールカントリーは世界全体の経済成長を享受できるため、国際情勢の変化に合わせたリバランスを自動的に行っているのと同様の効果があります。実際に、2018年10月の設定来から2024年4月末までに基準価額は約144.7%上昇し、年率換算で約17~19%台の高いリターンを記録しています。この上昇には世界株式の値上がりに加え円安効果も含まれますが、全世界株式の成長と為替メリットを取り込めた結果と言えます。過去数年の実績からも短期的な下落はあっても長期では右肩上がりの傾向が確認でき、将来の世界経済の発展による資産成長が期待できます。
- 分散投資と安定性: オールカントリーは「これ以上ないほどの分散投資」を実現しており、一国や一地域の経済に過度に依存しない点が大きな強みです。特に米国株式への投資比率が約6割と高い一方で、残り4割弱は日本を含むその他の先進国や新興国株式で構成されます。米国市場の成長を享受しつつ、仮に米国株が低迷する局面でも他地域の成長で補えるポテンシャルがあります。実際、オールカントリーの価格変動リスク(標準偏差)はS&P500より一貫して低く、直近1年では約14.5%、5年でも約20.1%と、S&P500の約21.1%よりわずかに低く抑えられています。これは国際分散によって値動きの振れ幅が緩和されている結果であり、長期投資における安定感につながります。
- 低コストのメリット: 前述の通り信託報酬をはじめコストが極めて低いため、長期に保有してもコスト負担が資産価値を目減りさせにくい構造になっています。信託報酬の差は複利で長期に大きな影響を及ぼすため、0.1%未満という水準は長期運用において大きなアドバンテージです。
- 積立投資(ドルコスト平均法)との相性: オールカントリーはNISAの主要対象にもなっているファンドであり、毎月コツコツ定額購入するドルコスト平均法との相性が非常に良いです。値下がり時には安く多くの口数を買い、値上がり時には購入口数が減ることで平均購入単価を慣らし、市場変動リスクを軽減できます。世界株式市場は短期的な変動はあるものの長期的成長が期待できるため、積立投資によって時間分散しながら着実に資産を増やせるでしょう。特に初心者や若年層にとって、毎月の給料から無理のない範囲で世界分散投資を続けることで、リスクを抑えつつ将来の資産形成を図れる点でオールカントリーは適しています。
オールカントリーとeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)の比較分析
長期投資の候補として人気のeMAXIS Slim 米国株式(S&P500)とオールカントリーを、リターン・リスク・コスト・分散度・長期的展望の観点で比較します。
リターン(過去のパフォーマンス)
過去の基準価額推移を見ると、S&P500ファンドの方がリターンは高水準でした。直近の年率リターン(税引前)は以下の通りです。
表1:オールカントリーとS&P500ファンドの年率リターン比較(%)(2024年11月時点)
過去期間 | オールカントリー (全世界株式) | 米国株式 (S&P500) |
---|---|---|
1年 | 34.03% | 40.55% |
3年 | 17.43% | 21.39% |
5年 | 19.55% | 23.73% |
S&P500ファンドは全期間でオールカントリーを上回る年率リターンを記録しています。特にここ数年は米国株式市場の顕著な上昇(ハイテク企業の成長など)と急速な円安も相まって、S&P500ファンドのリターンが突出して高くなりました。一方、オールカントリーは世界全体に分散している分、米国好調時にはリターンが相対的に抑えられる傾向があります。例えば直近5年間では、オールカントリーは年率約19.6%の成長でしたが、S&P500ファンドは約23.7%と約4ポイント高い利回りとなりました。
もっとも、今後のリターンも常に米国株式が優位とは限りません。米国以外の地域(新興国や他の先進国)が大きく成長すれば、オールカントリーの方が高いリターンとなる可能性もあります。過去約10年は米国主導の成長が続いたためS&P500が有利でしたが、長期的な国際情勢の変化を考慮すればリターンの優劣は将来も不変とは言えない点に留意が必要です。
リスク(ボラティリティ)
投資信託のリスクは基準価額の変動幅(標準偏差)で測ることができます。過去のデータでは、オールカントリーの価格変動はS&P500よりやや小さく抑えられています。標準偏差の比較をまとめると以下の通りです。
表2:オールカントリーとS&P500ファンドの標準偏差(ボラティリティ)比較(2024年11月時点)
過去期間 | オールカントリー (全世界株式) | 米国株式 (S&P500) |
---|---|---|
1年 | 14.53% | 15.83% |
3年 | 16.98% | 18.55% |
5年 | 20.14% | 21.07% |
全ての期間で、S&P500ファンドの方が標準偏差が1~2ポイント程度高く、値動きの振れが大きいことが分かります。これは米国1国に集中している分、指数自体の変動がダイレクトに基準価額に反映されるためです。一方でオールカントリーは複数国の動きが混合されるため、一部地域の急落を他の地域の動きが緩和する効果が期待できます。実際「オールカントリーの標準偏差はS&P500より若干低いが大差ない」との分析もあり、分散によるリスク低減効果は確かにあるものの、両ファンドとも株式100%ゆえにそれなりの変動リスクは伴う点は認識しておきましょう。
コスト(信託報酬等)の比較
両ファンドはいずれも低コストなインデックスファンドで、信託報酬は非常に低い水準で拮抗しています。2024年10月時点の税込信託報酬および総経費率は以下の通りです。
- オールカントリー: 信託報酬 年0.05775%以内、総経費率 約0.11%
- S&P500ファンド: 信託報酬 年0.09372%以内、総経費率 約0.10%
いずれも信託報酬は0.1%未満と超低水準であり、差はごく僅かです。信託報酬の名目上はオールカントリーの方が低いものの、実際にはファンド運営にかかる売買コスト・監査費用等まで含めた総経費ではS&P500ファンドがわずかに有利です。もっとも、その差は0.01%程度に過ぎず、実質的にはどちらもコスト面のロスは極めて小さいと言えます。また、両者とも購入手数料・解約時手数料(信託財産留保額)はゼロであり、長期保有時のコストは信託報酬のみです。長期投資においてコストはマイナスの複利要因となるため、この水準の低コストである点は両ファンド共通の大きな魅力です。
投資地域の分散度合い
地域分散の観点では、オールカントリーとS&P500ファンドで戦略が大きく異なります。オールカントリーは上述の通り全世界47カ国に投資し、先進国株90%・新興国株10%の比率で世界株式市場全体を網羅します。最大の構成地域は北米(米国約60%)ですが、欧州やアジアなども含めて地理的・通貨的にも分散が効いています。一方、S&P500ファンドは米国株式100%集中であり、米国以外の直接的なエクスポージャーはありません。ただし、S&P500指数に含まれる企業はAppleやGoogle(Alphabet)、Microsoftのようにグローバルに事業展開する多国籍企業が多く、売上は世界中から上がっているため、「米国株」とはいえ収益源は分散されている側面もあります。それでも投資先の国としては米国1カ国である以上、政治・経済・金融政策のリスクが米国に集中する点は否めません。したがって、地域分散を最重視するならオールカントリーに軍配が上がります。オールカントリーは「全世界株式」という名前通り、これ以上ない広範囲への分散投資を実現しているため、国別リスクを最小化したい投資家に適しています。
長期的な成長性・安定性の展望
長期的展望では、「米国集中の高成長を狙うか、世界全体の安定成長を狙うか」という選択になります。米国株式(S&P500)は過去数十年にわたり世界株式を牽引してきた実績があり、今後もイノベーションや企業競争力で米国が世界経済をリードし続けると信じるなら、引き続き高い成長性を期待できます。米国は基軸通貨ドルを擁し、人口増加や技術革新力でも優位性があるため、「今後も世界一の株式市場」との見方も根強いです。その場合、S&P500ファンドへの集中投資は高リターンを追求する合理的選択となるでしょう。
一方で、全世界株式(オールカントリー)はどの国や地域が台頭してもその恩恵を受けられる安定感があります。仮に将来、新興国が相対的に高成長を遂げたり欧州・アジアで有望な産業が勃興した場合でも、オールカントリーであれば取りこぼすことなくリターンに組み込めます。また、米国市場が低迷するリスクに対する保険ともなります。例えば1990年代後半~2000年代初頭のITバブル崩壊後や、1970年代のスタグフレーション期には米国株が低調でしたが、その間に他地域(新興国や資源国など)が相対的に好調な局面もありました。オールカントリーならそうした地域間のシフトにも自動対応できるため、長期で見たポートフォリオの安定性・レジリエンスが高いと言えます。実際、専門家も「分散投資を重視したい人はオールカントリー、利益成長重視ならS&P500」と助言しています。
総じて、長期の資産形成における成長性と安定性のバランスという視点では、オールカントリーは安定志向、S&P500ファンドは成長志向と整理できます。長期間で見れば両者のリスク・リターン特性に大差はないとの見方もありますが、将来の不確実性に広く備える安心感はオールカントリーの方が上でしょう。逆に、「今後も当面は米国が世界経済を牽引する」という確信が強い場合や、多少の変動リスクよりリターン最大化を優先したい場合には、S&P500への集中投資も合理的です。若年層でリスク許容度が高い投資家であれば、米国株中心でも耐えられる可能性があります。ただし投資初心者にとっては、一国集中よりもまず全世界分散で土台を築く方が安心感があるでしょう。
まとめ:長期運用に向けた投資判断のポイント
以上の分析から、eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)はNISAでの長期資産形成に非常に適した投資対象であると言えます。低コストで世界中に分散投資できる点は、長期・積立投資の理想的条件を満たしています。特に働き始めたばかりの若手の医師にとって、オールカントリーは運用に悩まず放置できる手軽さと世界経済全体の成長取り込みによる安心感を提供してくれるでしょう。
一方で、比較対象のeMAXIS Slim米国株式(S&P500)も同様に低コストで高い実績を持ち、より高いリターンを狙いたい投資家には魅力的です。ただし地域分散という点では劣るため、リスク分散を重視するかリターン最大化を重視するかで好みが分かれるところです。どちらを選ぶにせよ、長期目線ではコツコツ積み立てていく運用スタイルが肝心であり、市場環境に一喜一憂せず続けることが大切です。
最後に付言すると、オールカントリーとS&P500を併用する必要性は低いでしょう。オールカントリーの中に既に米国株が約6割含まれているため、両方持つとポートフォリオ全体で米国偏重が強まるだけで分散効果が高まらないからです。むしろ両者のどちらか一方を中核に据え、必要に応じて債券やREIT、金など値動きの異なる資産クラスを組み合わせる方が、より安定した長期運用につながるでしょう。
長期運用の判断軸として、「世界全体に分散し安定を取るか、米国集中で成長性を取るか」を踏まえ、自身のリスク許容度や信念に合わせて選択するのが賢明です。いずれにせよ、両ファンドとも新NISA時代に求められる長期・積立・分散・低コスト投資の要件を満たした優良な商品であり、長期的な資産形成の強力な味方となってくれるでしょう。
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