ブラック病院

医療とリモートワーク。医師へのフリーアクセスは医師の働き方を悪化させる。

医師定額使い放題時代の幕開け。近年、遠隔診療やリモートワーク(在籍する会社のオフィスに出社せず、自宅やレンタルオフィスなど、会社から離れた場所で業務を遂行する勤務形態)が社会に浸透しつつあります。働く場所を限定されないことが最大のメリットであり、新しい働き方として歓迎すべき点が多い一方で、医師の働き方には大きな影響を及ぼす可能性があると思います。


医師のフリーアクセス問題。背景にある大きな3つの変革

固定電話から携帯電話普及へ

固定電話しかなかった時代に、夜間、休日に病院で勤務する者(看護師や当直医師)から医師に連絡をとる方法は限定的でした。仮に自宅に電話したとしても、「今外出しています。帰宅したら連絡させます」という対応だったのでしょう。よほどの急用でなければ、帰宅後の医師に連絡することはなかったのではないでしょうか

その後、ポケットベルの普及、携帯電話の普及に伴い、夜間、休日の医師へのアクセスが非常に容易になりました。今はあたりまえで意識すらしませんが、夜間にオンコール医師の元に救急当直中の医師から相談がはいる、院内転倒などの報告が主治医に電話ではいるといったことは、固定電話の時代は容易ではありませんでした。

院内のレントゲン、CT、MRIをスマホから閲覧できる新しいサービスの普及

Joinというサービスをご存知でしょうか?Joinは平成26年11月25日施行「医薬品医療機器等法」における医療機器プログラムとして認証された新しいサービスです。これは、病院にあるCTやMRI画像を保管するPACSに対して、医師の持つスマホやタブレット端末から自由にアクセスすることが可能になる画期的なシステムです。医療用のLINEを想像するとイメージすやすいと思います。従来の携帯電話ではできなかった、病院の内部にある画像データに、365日、24時間医師がアクセスできるようになる時代の到来です。今、急性期病院や大学病院とった教育研修機関で普及が進んでいます。

救急外来を受診された患者さんが脳梗塞の可能性があり、MRIを撮像した。その画像を自宅にいる脳神経外科の医師に確認してもらい、治療法について相談したい。そのようなことが可能になる時代がやってきました。

クラウド型電子カルテの普及

すでに、院内の画像を閲覧するだけではなく、自宅にいる医師が、病院の電子カルテにアクセスして、オーダリングを可能にするシステムも開発されており、今後普及していくことはほぼ間違いがないでしょう。在宅にいながら、薬の処方をしたり、翌日の検査をオーダーしたり、紹介状を書いたりすることは10年後には当たり前の日常になっていることでしょう。それは、夜間や土日に、携帯電話で指示を出すことに、違和感を感じないことと同じように。

病院から医師へのフリーアクセス。逆らうことのできない激流

ただ、この流れが、現場で働く医師すべてに恩恵をもたらすわけではありません。医師へのフリーアクセスの増加という大きな問題が、さらに加速することは間違いありません。たとえば、救急病院において、夜間に来院された患者さんの画像を、自宅にいる放射線科医に読影してもらうためのインフラはすでに整ったことになります。コンサルトすることは、患者さんにとって非常に大きなメリットがあります。その1名の画像を自宅で見ること自体は、それほど放射線科医師にとっても大変なことではないかもしれません。しかし、放射線科医師が、24時間、365日いつでも読影しないといけないということが既成事実になってしまうと、医師にとっては、たまったものではありません



さらに、このコンサルトに関して、適切な報酬が支払われるのか?と言われると、かなりあやしいです。むしろ、無報酬になる可能性が非常に高いと思います。というのも、病院にくればみれる画像を、自宅で見れることは、医師にとってもメリットがあり、それに対して高額な報酬をつけることは難しいと考えます。病院ですべき仕事を、リモートワークで在宅で行ったからといって、そこに特別な報酬を与えることは不可能でしょう。つまり、夜間救急外来から、専門医の元に画像コンサルトがあり、それに対して医師が対応するという流れは、ほぼ無報酬(医師にとっては善意のボランティア)になってしまう可能性が大きいのです。病棟のオーダリング、検査データの確認も、同様で、休日夜間、出張先からでも行うことが可能になりますね。

病院経営者としては、リモートワークにはメリットしかない。医師定額使い放題時代の幕開け。

医師を「定時で帰宅させる」ことは、病院側にとっては、人件費を抑える大きなメリットがあります。これまでは、医師のサービス残業を黙認する社会風潮にありました。しかし研修医の過労死が社会問題となったため、医師の労働時間を把握し、適切な報酬(残業代)を支払う方向になると思います。しかし、そうなると医師の人件費が上昇し、病院経営を圧迫します。

医師の人件費はあげられない。でも、医師にはこれまで以上に働いてもらいたい。という経営者の気持ちを考えると、リモートワークの推進は、病院側にとってメリットしかありません。タイムカードを使って、医師の出勤、退社時間を厳密に管理して、原則として残業は許容しない。早期退社をうながす。その一方で、在宅で診療するためのインフラ(Joinやクラウド型電子カルテ)を整える。これまで病院でしていた仕事を、自宅でできるようになるというメリットと引き換えにして、在宅で時間の制限なく、無報酬の仕事をする医師。これは、ほぼ確実な未来だと思います。

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フリーアクセスをされる側には非常に大きな負担がかかる

日本の医療におけるフリーアクセスの弊害の代表は、救急車が無料で使用できることでしょう。アメリカでは、救急車の利用は有料です。フリーアクセスは、利用する側に大きなメリットがある一方で、過剰な利用に対して防衛する手段がありません。モラルに訴えかけるのが関の山ですが、効果はないに等しいです。日本の救急車不正利用を見ている現場の医師としては、医療のフリーアクセスからは距離をとりたいと考えます。スマホで、家にいても画像の閲覧が可能になり、オーダリングが可能になる未来。しかも、その診療行為がフリーアクセス、無報酬になるのであれば、医師の今後の働き方に大きな影響を及ぼすことは間違いないでしょう。

医師の定額使い放題問題について今の医療現場を眺めていると、今後、医師の使い放題問題がどんどん普及していく気がしています。本日は、医師の定額使い放題問題の背景について考...