大学病院

永久保存版:医師が大学院に進学するメリットとデメリットについて

大学の医局に属している医師であれば、教授や上司、先輩医師たちから大学院に進学して、博士号を取得するよう勧められることがあると思います。大学院に進学することのメリット、デメリットについて紹介したいと思います。

大学院ってどんなところ?

医学部を卒業して、医師国家試験に合格して、医籍登録を完了した後に医師になります。医師は、患者さんの診察、診断、治療を行うことが日常業務です。それに対して、医学博士を取得するためには、基礎研究を行う必要があります。基礎研究というのは、わかりやすく言えばマウスやラットを使用した実験を意味します。そして、研究結果を論文として発表することがゴールです。

学位を取得にするには大学に籍を置き、基本4年間大学院の授業を受け、研究(実験)を行う

実験で得られた研究成果を英語論文にして投稿し、accept(論文受理)をもらう(日本語の論文を認めている大学院もある)

その研究成果を教授に承認されたら学位取得となる

博士課程は、通常4年間です。この4年間は原則として大学に籍を置き、大学院の講義を聴いたり、研究を行う必要があります。大学によってプログラムは様々で、大学病院で1年間臨床の手伝い(いわゆる無給医)をして、残りの3年間を研究にあてるということもあれば、臨床2年、研究2年みたいなプログラムもあります。ただし、4年間で論文が完成しなかった場合、5年目、6年目と大学院の授業料を払い続ける必要がでてくるケースもあります。論文がpublishされるまで、時には7〜8年を要することもあります

そして、医学博士を取得するためには、論文がpublishされた後に、教授に承認されなければなりません。論文がpublishされた後に、学位審査というプロセスがあります。学位審査で、複数の教授の面接を受け、論文が学位として認めれたたら、学位(医学博士)ゲットです。どれだけ素晴らしい論文をpublishしたとしても、教授に認めてもらえないと学位は取得できません。逆に、(一流の医学雑誌とは程遠い)日本語の医学論文であったとしても、教授が承認してくれさえすれば、学位として認められます。

医師が大学院に進学して博士号を取得するメリット

大学病院のスタッフと知り合いになれる

大学病院のスタッフというのは、それぞれが専門領域のオピニオンリーダーであることが多いです。そういったアカデミックポジションで活躍する人達とコネクションを持てるということは一つの財産になると思います。開業した後にも大学病院にコネクションがあると何かと役立つと思います。

海外留学するチャンスをゲットできる可能性がある

医局を代表して海外に留学する場合、教授の推薦状が必要になります。教授の推薦状を書いてもらおうと思ったら、大学院に行くことはほぼ必須だと思います。大学院に進学せずに、海外留学をさせてもらうというのは、一般にはかなりハードルが高い行為だと思います。ただ、大学院に進学した人全員が海外留学できるわけではありません。複数の医師が留学を希望していたら、選抜に勝ち抜く必要がでてきますね。

基礎研究のスキル、医学論文を書くスキルが身につく

基礎研究のスキル、医学論文を書くスキルが身につきます。今後、アカデミックポジションで活躍して、将来教授を目指したり、公的病院の部長職を目指すキャリアを狙うのであれば、大学院進学は必須だと思います。

大学院在籍中に、研究者マインドが身につく

市中病院で臨床、手術に明け暮れていると、臨床で得たリサーチクエスチョンを、論文にしたり学会発表したりするスキルが身につきにくいかもしれません。もちろん、これは本人の努力次第ですが、大学院に進学して4年間研究を行ったり、学会発表したり、先輩医師に発表の指導を受けたりするうちに、自然と研究者マインドが身についてきます。

医学博士を取得していないと、公的病院の部長、病院長になれない可能性がある

公的病院によっては、部長職や病院長になるための条件として、学位(医学博士)取得を条件にしている場合があります。将来自分が公的病院の部長職や病院長を目指すのであれば、学位を取得しておいた方がよいと思います。教授を目指すのであれば、学位取得は、必須条件となります。

医師が大学院に進学して博士号を取得するデメリット

4年間臨床から遠ざかる

外科医であれば、大学院に進学している間は、手術から遠ざかることは覚悟しておく必要があるでしょう。大学に籍をおいている間は、病棟や外来の下働きをさせられるので、手術を執刀するチャンスはほとんど無いでしょう。

出費が増える

大学院の授業料として、学費を最低4年間(卒業が遅れたら、7〜8年間)収める必要があります。それ自体が大きな出費になりますが、所属する大学によっては、アルバイトの回数を制限され、大学病院内で無給医として働くことを義務付けられる可能性があります。そのような場合、大学院に進学した4年間の年収(一般には薄給)と、市中病院で勤務した4年間の年収の差額は、自分の生涯年収の低下につがなります。ただ、大学によってはアルバイトの回数に制限がない場合もあり、要領よく実験をしながら、アルバイトで効率よく稼ぐことも可能です。大学のスタッフよりたくさんアルバイト代を稼ぐ大学院生もいるみたいです。

大学によっては、卒業後にお礼奉公をさせられる

建前としては、「大学院で教授やスタッフに論文の指導をしてもらったおかげで、学位を取得できた」となります。そのため、4年後にお礼奉公をさせられる可能性があります。具体的には4年後に、数年間、僻地の病院(医局員に不人気の病院)に飛ばされることがあります。大学によっては、4年間の間に実験が終わっていなくても、僻地の病院に異動させられるケースもあります(その場合、実験が進まなくなり、卒業に7〜8年かかることも珍しくありません)。

将来開業するつもりなら学位を取得するメリットはほとんどない

将来開業する意思がはっきりしているのであれば、大学院進学のメリットはほとんどありません。あるいは、開業はしないけれども、公的病院ではなく、民間病院に就職する意思がはっきりしているのであれば、同様に学位所得のメリットはありません。医学博士を持っていたとしても、名刺に「医学博士」と印刷できる程度です。昔から学位(医学博士)は、「足の裏にはりついた米粒」と言われています。足の裏についた米粒(学位)をとっても、(飯は)食えないという意味です。