医師の働き方

最近の研修医は土日に病棟に来ない。けしからん!!

博士
博士
最近の研修医は、土日に病棟に来ない。けしからん。というお話

ベテラン医師と若手医師のジェネレーションギャップ

最近の研修医は、土日に病棟に来ない。けしからん。
という話を聞く機会がありました。
私は、「けしからん」という感情よりも、「なぜ、そのようなジェネレーションギャップが生じたのだろう?」と疑問に思うタイプです。

競争がないキャリア

以前の医師の働き方を象徴するフレーズが、「競争」です。
医師国家試験に合格した医師が、ほぼ全員、いずれかの医局に同時に入局して、医局人事で勤務先が決定されていた時代がありました。

そこでは、「同期の医師」という一生のつながりができます。
卒業した医師が、一つの医局にいっせいに入局するわけですから、研修医1年目を同時にスタートする医師のグループが形成されます。
一斉に医師のキャリアをスタートするわけですから、「○○先生と比べて、○○先生は、何もできないよね」という感じで自然と競争が生まれます。
「同期の中で、1番になってやる!!」というのは、言葉にはしませんが、多くの医師が持っていた気概かもしれません。

さらに、医局人事に100%依存していたので、この同期とのライバル争いはずっと続きます。

この、同期横並びで、競争させるというのが、昔はうまく機能していました。
どれだけ待遇が悪い職場でも、「文句を言って、競争から脱落したくない」、「出世競争に負けたくない」という感情が医師の仕事にフルコミットすることをサポートします。
医師は受験エリートですから、競争に勝ち続けてきた人種です。
競争させられたら、競争には負けたくないというマインドに突き動かされます。

ところが、今は、「卒業したあとの初期研修先をどこにするか?」、「後期研修をどこにするか?」といった感じで、医師の流動性が高まりました。
流動性が高まると、同期との競争という概念が希薄になります。

「研修医同期」はあるよね?と思われる方もいるかもしれません。
でも、研修医同士で競争するのは、たかだか2年ほどで、後期研修になると勤務先もバラバラ。そこで築いた評判はリセットされてしまいます。

競争にドライブされる働き方が消失しつつある。というのは一つのトレンドだと思います。

モノから意味の時代へ

人間は希少なものに価値をみいだします。
食料が希少な時代は、食料を安定供給することが重要でした。

私は、服を買うのが昔から好きでした。
自分が医者になった頃は、好きな服を揃えるために、シーズンごとに10万円くらい使っていました。
贅沢というより、自分好みの服はどれも高くかった。
当時からユニクロはありましたが、安かろう悪かろうのクオリティだったので、「引っ越しや大掃除のときはユニクロの服でいいや。」という感じでした。

最近でも、服選びは相変わらず好きですが、8割くらいの服がユニクロで事足ります。
それだけ、ユニクロのクオリティが高くなったということです。

自分らしさを表現するための選択肢が増えたとも言えます。

好きな服を買うために、お金が必ずしも必要なくなってきた。

現代で枯渇しているのは、「モノ」ではなく「意味」ではないでしょうか。
・なぜ働くのか?
・どのような働き方が自分らしいか?

意味は、100人いたら、100通りの解釈が存在します。
労働に100%の価値を感じる人もいれば、「自分らしく生きるために、必要なお金が得られたらそれで十分」という人もいます。

「働いて得た金で好きなモノを買う」という価値観から、「労働の意味」を求める時代になったのです。
当然働き方は多様になります。

SNSの普及

SNSの普及も大きなトレンドですね。
自分が医者になったころは、Twitterは存在しませんでした。
自分が会う人々が、日常を形成していました。

でも、今は、職場で目に見える人との交流以外に、SNSで気の合う仲間との交流という軸が生まれました。
職場で会う、自分と気の合わない同僚と会話するよりも、SNSで自分と同じような考えを持つ人とチャットするほうが楽しい。

SNSのメリットでもあり、デメリットでもあるのが、「自分の生きる意味」に共感する人が容易にみつかることです。
それが救いになることも多いですし、逆に、「偏った考え方を助長」してしまうリスクもあります。

冒頭の研修医が土日に病院にこないのはけしからん。
というお話に戻ると、以前であれば、上司からこのような指摘を受けると、「ライバルとの評価に差がつく」と感じた。
でも、今は、SNSで、「上司から土日に病棟に来ないと怒られた」とつぶやくと、「それって古い価値観だよね。10年後には消えてるよ」みたいな共感が集まります。