医師は、勤務医であれ、開業医であれ、広い意味では、国の元で働く準公務員と考えられます。準公務員としての、現時点での恩恵と今後のリスクについて考えてみましょう。
Contents
医師は国の管理する保険医療機関で働いている
自由診療を除き、多くの勤務医、開業医は国の認可した保険医療機関で、保険診療を行って収益を上げたり、給料をもらっています。つまり、自由診療を除くと、実質的には準公務員と考えるのが妥当でしょう。自分がどれだけ高い医療技術を持っていたとしても、国の定めた診療報酬点数以上の請求はできませんし、国が認可していない診療を行うことは原則としてできません。
国が医師の数を制限。大きな参入障壁となり医師は守られている。
日本で働く医師の数は、国の管理下にあります。これは、他業種に対する大きな参入障壁となっており、日本の医師は守られた立場にあると言えます。医師の国家資格をとるためには6年間の医学教育を受け、国家試験に合格する必要があります。その後、研修医、抗菌研修医を経て医師として第一線で働くことになるため、医学部に入学後、最低でも10年程度の下積みが必要になります。
このような状況にあるため、第一線で働く医師の数は、国が余程大きな方針転換をしない限りは、大きく変化することはないでしょう。しかし、そのことが安泰を意味するわけでは決してありません。というのも、実は医師の数は過去30年にわたって増加し続けています。さらに、今後日本は、人口がかなりのスピードで減少することが人口動態から明らかになっています。
現在まで、医師は準公務員という立場から、非常に大きな恩恵を受けていた
現在の医学部医学科人気をみれば容易に理解できますが、「これまで医師は準公務員という立場から、非常に大きな恩恵を受けていた」ことは明らかでしょう。大きな参入障壁に守られた準公務員という立場と高額所得の組み合わせですから、ある意味当然の結果といえます。
日本は失われた20年の間に恐ろしく物価の安い国になりました。質まで含めた商品やサービスを考えると、世界最低水準の物価と言えます。その背景には、サプライヤーの利益を削り続け、被雇用者の給料、生活水準を低く抑えてきたという事実があります。それに比べると、相対的に公務員や年金受給者の生活水準は、高く保たれてきたといえます。
今後は、社会保障費抑制圧力にさらされる
これまで、勝ち組であった医師の生活も、今後は厳しくなることは間違いありません。その大きな理由が、少子高齢化に伴う日本の社会保障費増加と、それに対する抑制圧力です。日本の社会保障費は増加の一途をたどっています。それに加えて、少子化のため労働人口が減少することが運命づけられており、今後社会保障費に抑制圧力が加わることは間違いありません。勤務医の給料が徐々に下がることは容易に想像できますし、今は儲かっている開業医であっても、国が水道の蛇口を締め、診療報酬点数下げてしまえば、収益が減少することから逃れることはできません。
ブラック・スワンに備えよ
経済用語で、巨大な影響をもたらす、大規模で、予測不能で、突発的な事象をブラック・スワンと呼びます。これまでは、安定した職業の代表であった、医師という働き方。しかし、今後、日本の国民皆保険制度の崩壊といったブラックスワンが出現すると、大きな変革を迫られる可能性は十分にあります。
ブラックスワンに対して、医師がとれる対応策をまとめた、ナレーション付き動画(ナシーム・ニコラス・タレブ著書のAntiFragileの解説)もぜひ御覧ください。