今の医療現場を眺めていると、今後、医師の使い放題問題がどんどん普及していく気がしています。本日は、医師の定額使い放題問題の背景について考察してみます。
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医は仁術という理想概念
医師は、人の命を扱う仕事をしています。人の命は、何者にも代えがたいものであり、値段をつけることはできません。そして、その貴重な命を扱う医師は、「いついかなるときも、病院に駆けつけて、最善の治療をほどこすこと」全ての国民から求められています。
日本人は、「日常生活の中でお金や、お金儲けについて話すことを嫌う国民性」を持っています。医療を金儲けに利用するなんてとんでもない、医師は勤務時間内であろと、なかろうと、365日医師である。人の命を救うという行為をお金(報酬)と結びつけることはタブーとされています。
医師は準公務員という立場にあり、国の管理下で働いている。
自由診療を除き、ほとんどの勤務医、開業医は国の認可した保険医療機関で、保険診療を行って収益を上げたり、給料をもらっています。その関係で、少子高齢化、国民皆保険制度を始めとする社会保障制度の財源問題の影響が直撃する立場にあります。そのような背景にあるため、診療報酬には常に抑制圧力が加わるため、医師の給料が今後上昇する可能性は非常に低く、徐々に下がっていくことが予想されます。医師過剰時代の到来も同様に給料を下げる方向に働くことでしょう。
黒字化が難しくなる病院経営。医師の給料にはさらなる抑制圧力が加わる。
診療報酬に抑制圧力が加わるため、病院経営を黒字化するためには、医師の人件費に対して、厳しい目が向けられます。これまでは、医師に残業代を支給せずに、サービス残業をさせることで収益を保つことができました。しかし、近年大学病院や急性期病院における医師の過労死が社会問題となっており、今後は、医師の実労働時間の把握と、時間労働の改善がすすめられることでしょう。当面は、正当な残業に対しては、時間外手当を支給する流れになりますが、病院経営を黒字化するために、これ以上医師の人件費を上げることはできません。
今後、医師のリモートワークがすすむ。医師定額使い放題で待遇は悪化。
医師の出退勤を、タイムレコーダーを使って、厳重に管理する。定時の帰宅を促すことで、残業時間を抑制する。それだけであれば、医師の労働環境は改善するはずですが、医師の仕事量を減らすと、収益が下がってしまいます。病院経営者としては、今までと同じ給料で、今まで以上に一生懸命働いて欲しい、というのが本音です。定時に帰宅させないといけないが、これまで以上に医師には働いてもらわないといけないのです。
そんな、経営者にとっては、魔法のようなシステムが登場しました。医師のリモートワークを可能にするインフラ(クラウド型の電子カルテやJoinのようなスマホで病院のCT、MRIが閲覧できるサービス)が次々に開発されています。これは、病院経営者にとっては、夢のようなサービスです。医師を定時に帰宅させて、自宅で電子カルテの入力(オーダリング、診療情報提供書作成、入院サマリー、手術記録作成など)をしてもらえば良いのです。
医師に在宅で仕事のできる環境を提供することができれば、夜間救急の画像読影を自宅にいる放射線科医師に依頼することも可能になります。そこに報酬がだせるか?といえば、元々医師の人件費を下げることが目的ですし、病院に来ればできる仕事を在宅でできるという医師のメリットもあるため、特別な報酬を与えることは期待するだけ無駄でしょう。そもそも、休日、夜間の病棟、救急からの電話相談に報酬という概念は存在しませんから、その延長(ボランティア)ととらえられるはずです。
まとめ
社会保障費の増大に伴って、国は病院に対して十分な診療報酬を支払うことができなくなります。病院経営を黒字化するためには、医師の人件費を下げるしか方法がありません。かといって、従来のような残業時間を管理せずに、ブラック労働をしいると医師の過労死が増えてしまいます。医師の出退勤を厳密に管理して、早期退社を促す一方で、時間外の無報酬労働を増やす(リモートワークがそれを可能にする)という流れは、医師の今後の働き方に大きな影響を及ぼすはずです。