大前提として、今後社会保障費については、抑制圧力がどんどん強くなります。現在の国民皆保険制度が、いったん崩壊して、アメリカ式の医療制度(加入している保険、つまりは自分の所得によって受けられる医療が決まる)に移行した場合は、医師の働き方にも大きなルール変更がなされます。しかし、現行の国民皆保険制度が持続している限りは、病院の収益はどんどん上げにくくなることは間違いがありません。非常に少ない財源で、病院はやりくりしないといけないのです。
公的病院では、能力給にはならない
医師の現場を眺めていみると、働き方、医師の能力には、大きな差があることがわかります。しかし、公的病院の医師の給料が能力給になる可能性は、限りなくゼロに近いと思います。病院の経営者の立場で考えてみると、病院の収益の中から、医師の人件費には、だいたいこれくらい割り当てられるだろうと計算することになります。働き盛りの35歳〜45歳の医師の給料を高くするのが理想的ですが、誰かの給料を上げるということは、誰かの給料を下げるということです。そんなことは、人の恨みをかうだけですから、誰もしたがりません。つまり、無難な落とし所として、給料は年齢で決まる。年齢(正確には医師免許取得後の年数)が同じなら給料も同じ。いわゆる年功序列という日本のサラリーマンに最適化された勤務体系となるのです。
そして、病院の収益の中から、人件費として割り当てられる金額は決まっていますから、長時間働く医師から残業代を請求されたら困ったことになります。急性期病院の当直を夜勤扱いすることに対しても、近年風当たりが強くなっていますが、これに対してもなんとか手を打たなければなりません。そこで、一般的には、中堅医師には全員管理職的な役職を与えて、
ちなみに、アメリカの外科医の給料は、日本の医師の10倍を超えることもありますが、これは、アメリカの外科医が、自分の売上で、スタッフを雇い、実質的には個人オーナー的な責任をおっているためです。つまり、売上があがらなくなったら、退場を余儀なくされるのです。一概にアメリカの医師の方が報酬が良くて良いとはいえません。日本人医師は、売上を上げなくても解雇されることはないからです。日本人医師は、雇用の安定が大きい反面、給料は横並びと考えるのが妥当でしょう。
自分のプライベートを全て医療に一点集中する医師は減る
20年以上前であれば、自分のプライベートを医療に一点集中する医師が普通でした。病院に住み込みで近い状態で働いたり、緊急対応、残業をしたとしても、それは医師にとって日常であり、そのお金を病院に請求するのは、なんかみっともない。しかし、それは全て過去の話であり、少なくとも今の医学生、研修医達のは、ほぼ受け入れられないでしょう。仕事というのは、人生の一部分であるというのが現代のコンセンサスです。
そうなると、いわゆるブラックな職場は、若手医師からは、「できるだけ近づきたくない場所」として認定されてしまいます。彼らは、軍隊型の医局システムにも、違和感を感じていますし、医師になる時点から、自分たちで働く場所を選ぶことが当たり前になっています。ブラックな労働環境の病院には、若手医師が集まらず、中堅医師がなんとか歯を食いしばって病院経営を支えるというのが、現在の状態だと思います。
現在の若手医師をみていて思うこと
現在の若手医師は、生まれてから日本が高度経済成長をする姿をしらない世代です。むしろ、高度成長期を過ぎた後、衰退していく日本の”しんがり”をつとめるような厳しい環境にたたされています。価値観も多様化しており、同期と同じキャリアにはそれほど関心がありません。それよりは、むしろ、現在の医療を一歩引いた立場から眺めて、自分の価値観に最適化する働き方を見出したいと感じているのではないでしょうか。そのような世代に、「昔から若い医師は、何も考えずに、がむしゃらに働くものだ」とか「病院の待遇や上司からの指示に対して口出しするなんてありえない」と自分たちの価値観を押し付けたとしたらどうなるでしょうか?おそらく、「わかりました」と返事はしてくれるでしょうが、そのような環境から逃げ出す道を真剣に考えるでしょう。自分たちで職場環境を変えようとするのは、軋轢もあるし、そもそも興味がありません。若手医師がいなくなってしまった病院に残された病院関係者は、今以上にもがき苦しむという悪循環になるような気がしています。