医師の節税に関する基礎知識

勤務医の節税・経費:特定支出控除の利用価値は?

博士
博士
転勤に伴う引っ越しをした年は、特定支出控除をぜひとも利用しよう。かなりの節税効果が期待できるのだ。

実は、サラリーマン(勤務医)にも、自営業者の経費と同じしくみがあります。これを給与所得控除といいます。

給与所得控除とは

給与所得控除は所得税計算に必要になります。そもそも所得税の計算の流れはどのようなものなのでしょうか。
A. 収入 – 必要経費 = 所得
B. 所得 – 所得控除 = 課税所得
C. 課税所得 × 所得税率 = 所得税
D. 所得税 – 税額控除 = 所得税納付額
給与所得控除はBの「所得控除」の一部のように見えますが、実際にはAの「必要経費」の中に含まれるものです。所得控除とは、社会保険料や生命保険、扶養控除、医療費控除など、確定申告をする方であれば誰でも受けることができる控除を指します。給与所得控除は給与収入がある方のみ受けられるものです。
Dの「税額控除」は、寄付金控除などの税金から直接控除できるものを指します。
給与所得控除とは、給与収入の額に対して一定の金額を差し引く仕組みです。簡単に言うと、サラリーマンの必要経費を自動計算する項目が給与所得控除になります。

給与所得控除の意義

給与所得控除の意義は「勤務にかかる経費」です。経費は会社から支給されるものもありますが、スーツやパソコンなどは業務に必要であるにもかかわらず、会社から経費として支給されないものがあります。
給与所得の経費を事業所得と同じように考えると、給与所得者の個々の経費を税務署がチェックしなければならなくなります。しかし、業種や職種は各々で異なるため、どこまでを経費として認めるか決めるのは困難です。そうであるなら、一律に経費を決めてしまって、社会全体のコストが削減するのが妥当であると考えられます。給与所得控除や年末調整は効率的で優れたものですが、給与所得者が所得税を理解・意識する機会が少なくなり、納税意識が薄れるという問題があるという指摘もあります。

給与所得控除の額

これは、国税庁のホームページに記載があります。
H29年から30年分に関しては、1000万円以上の支払い金額に対しては、一律220万円とされています。
このHPをみてもらうとわかりますが、数年ごとに給与所得控除の額は減額されており、実質サラリーマンの税負担が増加しています。サラリーマンに気付かれないように巧妙に税負担を増やしているのです。

経費と控除を理解すれば節税という道が開ける※2019年1月1日に公開した記事ですが、一部の記事を削除(取り消し線を表示)して2019年1月07日に再度公開しました。 主な仕事と...

特定支出控除とは

給与所得控除というのは、自営業者の経費に該当するものを、所得に応じて、一律決定して、チェックする手間、労力、コストを省くことが目的でした。ですが、非常に高額の出費(例えば転勤に伴う転居など)があると、給与所得控除の金額を軽く超えてしまうことも予想されます。
そういった方の救済処置として、特定支出控除という制度が利用できます。

特定支出控除は「個人で業務に伴う費用を負担(特定支出)した場合で、それが一定額を超えるとき、超えた金額を給与所得控除額に加算(所得金額から減算)できる制度」のことです。
実は1987年から存在していましたが、給与所得控除額に加算できる特定支出が「給与所得控除額の総額を超えた部分」だったため、利用する人はほぼいませんでした。
しかし、2012年の税制改正で基準が緩和され、「給与所得控除額の半分を超えた部分」が対象と認められるようになったため、以前より格段に利用しやすくなりました。

 この特定支出とは、給与所得者が支出する次に掲げる支出のうち一定のものです。国税庁HP参照
1 一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出(通勤費)
2 転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出(転居費)
3 職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出(研修費)
4 職務に直接必要な資格を取得するための支出(資格取得費)
※平成25年分以後は、弁護士、公認会計士、税理士などの資格取得費も特定支出の対象となります。
5 単身赴任などの場合で、その者の勤務地又は居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出(帰宅旅費)
6 次に掲げる支出(その支出の額の合計額が65万円を超える場合には、65万円までの支出に限ります。)で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして給与等の支払者より証明がされたもの (勤務必要経費)
(1) 書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものを購入するための費用(図書費)
(2) 制服、事務服、作業服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入するための費用(衣服費)
(3) 交際費、接待費その他の費用で、給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出(交際費等)
※6の支出については、平成25年分以後、特定支出の対象となります。
 なお、これらの六つの特定支出は、いずれも給与の支払者が証明したものに限られます
 この特定支出控除を受けるためには、確定申告を行う必要があります。

特定支出控除の額

H28以降は、その年中の給与所得控除額×1/2
とされています。
国税庁HP参照
ほとんどの勤務医の給与所得控除額は、上述の220万円だと思いますから
220万円×1/2=110万円

ということは、上述の1〜6に該当する領収書を集めたら150万円集まったとしたら、150万円-110万円=40万円分が控除されることになります。110万円以下であれば、利用することはできません。

勤務医で特定支出控除を使えるシチュエーション

実際に、毎年特定支出控除を利用できる人はそれほど多くは無いと思います。ですが、例えば転勤に伴い、自腹で引っ越しをした場合は、利用価値が高くなります。

特定支出控除を利用すべきシチュエーション

・転勤に伴い、引越し費用を自己負担した場合
・海外の研修、学会参加を自己負担で行った場合
・専門医試験、専門医維持費を自己負担している場合
・単身赴任の帰宅旅費
・医学書購入費用
・研修医の勧誘飲み会などの交際費

110万円を超える必要があるため、「転勤で引っ越しがあった年は特定支出控除を利用する価値が高い」とおぼえておくと良いでしょう。引っ越しをした年は、医学書の領収書や専門医維持費、単身赴任なら帰宅旅費、研修医の接待飲み会の領収書などを全て集めておけば、自営業者と同じようにかなりのお金を控除して、節税することが可能になると思います。自営業者が領収書を集めている気分が理解できますし、税金に対する理解を深めることも可能ですからぜひ利用してみてください。
飲み会などの交際費については、領収書を提出する際に、○月○日に、○○医師の勧誘会のため、○○レストランで食事を行った。というふうに記録をつけておくのが良いと思います。そうでないと、病院から承認を得るのが難しいと思います。