不動産営業マンの定番のセールストークに、「賃貸より買ったほうが絶対得ですよ」というものがあります。賃貸でお金を払い続けたところで、不動産は手元に残りません。一方で、住宅ローンを返済し終えれば、マイホーム(マンション)は、自分のものになります。おまけに今は超低金利だから、賃料よりもローンの返済額の方がずっと安い。この理屈は直感的にわかりやすいですが、本当にそうなのでしょうか?
このロジックの裏にある、見落とされがちな真理について順を追って説明したいと思います。
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賃貸と所有でどちらかが絶対に得だ。などということは市場経済ではあり得ない。
所帯を持つ人にとってマイホームを購入することに、何の疑問もいだかない人が多くいます。しかし、ほとんどの企業は、土地や建物を借りてビジネスをしています。企業の目的は利潤の最大化なのですから、賃貸より所有が絶対に得であるならば、企業はなぜ土地や建物を購入しないのでしょうか?
市場が、十分に効率的であるならば、マイホームと賃貸のどちらを選んでも、損も得もないように不動産価格と賃料が決まるはずです。医師に節税をすすめるスキームで、ワンルームマンション購入をすすめてくる業者がいます(これは、ほぼ確実に損をしますから十分に注意を)。「このワンルームマンションを購入して、賃貸に出せば、確実に利益が見込めますよ」というロジックです。ここで生じる、大きな疑問として、確実に利益が見込めるのなら、その業者は、なぜ自分で賃貸にださないのでしょうか?
世の中には、「確実に損をする取引」は山程ありますが、「確実に得をする取引は」存在しません。
マイホームで確実に得をするためには、借金によるレバレッジと不動産価格が右肩上がりに上昇する時代背景が必要。
マイホーム購入が得か損か?という疑問に対する答えは非常にシンプルで、「購入した不動産の価格(頭金+住宅ローン)が、将来上昇すれば得、逆に低下すれば損」それだけです。
高度経済成長期においては、できるだけ若いうちに、長期のローンを組んでマイホームを買うことが必勝パターンとされていました。その背景には、不動産価格が右肩上がりに上昇するという神話と、定年退職するまで給料が上がり続ける終身雇用という神話がありました。借金をして購入した不動産の価格が将来右肩上がりに上昇して、なおかつ借金の利息を払い続ける体力(安定した雇用)があれば、若い内にローンを組んでマイホームを購入することに合理性があります。しかし、現代において特に地方都市においては、不動産価格は減少し続けており、終身雇用については事実上崩壊しています。
総世帯数は今後減り続けるのに、なぜ住宅を建設しつづけるのか?
不動産会社や建設会社にとっては、毎年新しい住宅を建設し、販売する以外に利益を確保する方法がありません。こうして、都心にタワーマンションが乱立する一方で、郊外や地方で空き家は増加し続けています。不動産会社や建設会社にとっては、「今後不動産価格が上昇するかどうか?」に全く興味はなく、今買いたいという人達に売ってしまえば、後はどうなろうと知ったことではありません。
不動産業界は認めたくないでしょうが、人口動態を考えれば今後、日本の不動産価格が値上がりする理由はどこにもありません。
タワーマンションが35年後にどうなっているか?
人口減少に伴って、人が住まなくなり、ゴースト化したマンションは、今後間違いなく増加するでしょう。マンションの価値を維持するためには、エレベーターや水道管理、外壁や内装の修繕が必須です。しかし、いったんゴースト化が始まってしまうと、管理費や修繕積立金を滞納する人がどんどん増加し、大型の修繕、メンテナンスが不可能になってしまいます。高級タワーマンションという地位財(他人との比較することで満足する買い物)無思考に購入するのは、危険な考え方です。
賃貸を続けていたら老後に住む家はどうすればよい?
若い頃から質素な生活を心がけて、貯蓄を心がけます。マンションの賃貸価格は、今後次第に下がってくるはずですから、割安となったマンションに、定期的に引っ越します。さらに適切なリスクをとって金融資産投資を行うことで、老後にまとまったお金を蓄えることは十分に可能です。
定年退職した老後に、夫婦で相談して、その時点で住みたい場所に中古で、身の丈にあったマイホームを購入すれば良いのではないでしょうか?もちろん現金購入が前提になりますが、将来不動産価格が下がり、自分の手元に十分な資産があれば、今より割安になった不動産を購入することはそれほど難しいことではありません。