Join(ジョイン)はパンドラの箱
ガイアの夜明けという番組内で、Join(ジョイン)という医療関係者間コミュニケーションアプリが紹介されました。Joinは平成26年11月25日施行「医薬品医療機器等法」における医療機器プログラムとして認証された新しいサービスです。これは、病院にあるCTやMRI画像を保管するPACSに対して、医師の持つスマホやタブレット端末から自由にアクセスすることが可能になる画期的なシステムです。医療用のLINEを想像するとイメージすやすいと思います。従来の携帯電話ではできなかった、病院の内部にある画像データに、365日、24時間医師がアクセスできるようになり、急性期病院や大学病院とった教育研修機関で普及が進んでいます。
以前から、Join(ジョイン)は画期的なシステムだけれども、医師へのフリーアクセスを加速させる点を問題視していました。
#ガイアの夜明け で話題の「ジョイン」
個人的には@ysugimoto 先生のブログ記事がしっくりくる。
このアプリで過重労働が解決するというのは少し論点がズレてるように思う。
医療とリモートワーク。医師へのフリーアクセスは医師の働き方を悪化させる。 https://t.co/YZV1Ai5ohS @ysugimotoより
— どくしょー🐼旅する整形外科医 (@ShoichiroMizuno) 2019年2月26日
どくしょー先生のツイートが拡散されたため、私のブログ記事をたくさんの人に読んでいただくきっかけになりました。ありがとうございます!
様々な医療者側の意見がありましたが、私が一番注目したのは、外科医けいゆう先生のツイートでした。
「年中オンオフがないこと」が医師の激務の要因の一つなので、ジョインを導入すると、結局医師を常時「オン」にする改悪になる恐れがある気がするんですよね。
上手に、慎重に運用しないと、この画期的なシステムも台無しになってしまう。— 外科医けいゆう (@keiyou30) 2019年2月27日
医師へのフリーアクセスは、医師を精神的に追い込んでしまう
勤務医として働いていると、仕事が終わって、自宅でくつろいでいる時間に、病棟から電話がなったり、救急対応の連絡が入ることは日常です。医者の仕事ってそんなもんだよ、と感じている医師が多いと思いますが、このような生活を強いられる職業というのはそれほど多くありません。365日、24時間いつ携帯がなって対応を迫られるかもしれない。しかも、そのイベントがときに人の生死や人生に関わる重大なものになる。これは、客観的に考えると、かなり大きな精神的負担を強いられている環境といえます。
医師は、仕事中も肉体的、精神的負担を強いられています。働き方改革の中で、なぜか医師だけは、一部の地方都市では、残業時間の上限を増やす方向で働き方が改悪されようとしています。
自宅で生活する時間というのは、日中の肉体的、精神的ダメージを回復する時間と考えるべきです。それなのに、医師が帰宅したあとも、自分のスマホに病院からの医療コンサル(フリーアクセス)を受けたのでは、医師は心を休める時間が全くなくなってしまいます。しかも、このフリーアクセスは、残業時間と把握されないでしょうから、医師側で防衛する手段がありません。
年中オンオフがないことが医師の激務の要因の一つとなっている。ジョインを導入することで、医師を常時「オン」に保ちつづけることは、医師を精神的に追い込んでしまうことは目に見えています。
急性期病院の医師による立ち去り型サボタージュ
日本は少子高齢化で国民皆保険制度を維持するための財源が不足しており、本来病院に支給すべき財源が削られているのが現状です。救急車が無料で使えるため、不正利用も多く、病院へのフリーアクセス、医療者への負担増になっています。それに加えて、医師を365日、24時間オンの状態にするシステムが導入されたら。私が、そのような環境で働く医師にアドバイスするとしたら、「一刻も早くその場から逃げ出したほうが良い」とアドバイスすると思います。
国に見捨てられ、国民からも見捨てられたと感じる医師は、現状を変えようと努力しても無駄と考えるようになり、「立ち去り型サボタージュ」と呼ばれる自己防衛を行うしかないのが現状です。これが加速すると、最終的には国民が安全、安心な医療を受けることができなくなります。
医師をこれ以上追い込むと、後戻りのできない境界線を超えてしまう恐れがある。急性期病院で働く医師として危機感を感じています。