空飛ぶロボットは黒猫の夢を見るか?(日記)

インフルエンサーという商品

フランケン
フランケン
「インフルエンサーという商品」という名のポエム
博士
博士
Twitterのフォロワー8人のワシには関係ないけど

違う自分に

自分は変わりたい、違う自分になりたい、と「彼ら」は云う。
本当だろうか?

「彼ら」は変わりたいのでは無い、変わることができないことの責任から解放されたいだけだ。パッとしない人生だ、でも一生このままでもいい。ただ、パッとしないのは「彼ら」のせいじゃない、そう思いたい。

あなたは変われる、と言って欲しい。
あなた以外の何かの力によって変わることが妨げられている、と言って欲しい。
あなたが悪いわけではない、そう言ってもらいたい。

かつてその役割の担い手はテレビの中にいた。
成功を具現化したあの文化人は、あの芸能人は、あの政治家は、あの社長は、「あなたも私の様になれる」と言ってくれた。
しかし、そんなことは無いということを「彼ら」は気づいてしまっている。

「彼ら」は時代の中に新しい救いを見出した。
SNSやブログで情報を発信するインフルエンサーは、等身大の成功者だ。ネットを通じて繋がっており、レスポンスすら得られる「実在する救い」なのだ。
中でも特に人気を集めるのが、社会的、経済的成功を収めた人物であり、その様なインフルエンサーはしばしば自分のノウハウを伝える宗教の教祖に祭り上げられる。

「彼ら」は熱狂的に教祖型インフルエンサーに群がり、教祖型インフルエンサーの声に耳を傾ける。

「彼ら」は何をしているのだろうか?
何を求めているのだろうか?

教祖型インフルエンサー

「彼ら」の行動の本質は「消費」である。

インフルエンサーの垂れ流す成功体験を、疑似的に自己の経験として味わうことで分泌される脳内麻薬を求めている。
だから、どんなノウハウでもいい。不動産でも、仮想通貨でも、アフィリエイトブログでも、芸能でも、起業でも、成功体験を垂れ流してくれればなんだって構わない。
ハーレクイン小説を読む少女のように、ハリウッド映画を見る中年のように。
教祖型インフルエンサーとは自己を投影するためのキャラクターなのだ。

映画を見てウットリしている女性に「ストーリーに矛盾がある、登場人物の行動が不合理だ」と指摘すると、間違いなくイヤな顔をされる。私は映画を楽しんでいるのに、なんで水を差す様な真似をするんだ。

「彼ら」は娯楽としてインフルエンサーを消費している。

ノウハウを語る教祖型インフルエンサーは「彼ら」に苛立ちを感じるのだろう。俺は成功するための方法を話してるんだ、なんでどいつもこいつも「どうやったら楽してあなたみたいになれますか?」って聞くんだ、と。「彼ら」はインフルエンサーの様になりたいとは思ってない。インフルエンサーの垂れ流す麻薬を効率よく吸収するために「どうやったらあなたの感じるカタルシスを簡単に追体験できますか?」と聞いているのだ。娯楽コンテンツの楽しみ方を教えて欲しいのだ。
教祖型インフルエンサーが「お前が変われないのは、お前が何もしないからだ!」と言えばいうほど「彼ら」は離れていく。
自分を否定するコイツは、求めている娯楽では無い、と。

契約

成功体験だけを騙るイカサマ師が群雄割拠できる理由はこれだ。

イカサマ師はより具体的に、簡単に、短期間で、誰でも、確実に、成功を得られると豪語する。冷静に聞けばなんのノウハウも含まれてなどいやしない。しかし「彼ら」にとってはそんなことはどうでも良い。実践する気などハナから無いのだ。極上の娯楽でありさえすれば良い。

この方法を実践すれば自分も成功できる!
成功した暁にはこのインフルエンサーが語る、目の眩む様な体験が待っている!
今、自分は成功者になった!
ああ、なんて素晴らしい人生!というカタルシスと共に大量に分泌されるエンドルフィンに酔うことができれば、明日のつまらない仕事にも耐えられる。

イカサマ師は自分の情報に値段をつける。客観的に見て、その情報はイカサマ師の謳う成功を約束しない。だから冷静な人はイカサマ師を非難する。しかしイカサマ師が要求する金など「彼ら」にとっては微々たるものだ。

売買契約は成立している。
「彼ら」はすでに望むものを受け取ったのだ。
自己肯定という強烈な麻薬を。

彼ら

「彼ら」の気持ちは痛いほど理解できる。

彼らとは、僕自身だからだ。

僕はありとあらゆる成功体験を聞くのが好きだ。
大きな成功であればあるほど。
具体的であればあるほど僕を酔わせてくれる。
誰かの成功体験に酔っていたい。

あの人の様になりたいのでは無い。
あの人になりたいのだ。
今すぐに、
この瞬間だけでも構わない。

そんな僕を許して欲しい。
みんなそうなんだ、と言って欲しい。
今の僕を肯定して欲しい。

せめて、あなたにだけは。

そう言ってくれよ、
僕のインフルエンサー。