結婚して家族ができたらマイホームを購入する。これは、高度経済成長期には正しい選択肢でした。しかし現在では、自分ではコントロール不能のリスクが増えており、医師であってもマイホーム購入は、かなりリスクの高い選択肢になりました。その理由を説明したいと思います。
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長期ローンのリスク
この記事を執筆した2018年においては、低金利の状態が続いています。しかし、住宅ローンで変動金利を選択した場合、金利が上昇すると、毎月の支払い金額が上昇する可能性があります。それにともなって医師の給料が増加すれば問題はありません。しかし、少子高齢化により日本の社会保障費には抑制の圧力がかかるため、勤務医の給料にも抑制圧力が加わる可能性も十分に考えられます。
働き方が限定される
マイホームを購入すると、働き方は限定されます。例えば、「新しい職業スキルを身につけるために半年間留学する」とか「起業の準備をするための半年間、医師としての仕事を週3に制限する」といった選択が必要になったとします。
そのような今は予想していないイベントにより、一時的に収入が減少するシチュエーションが今後誰の身にもおこりえます。その場合、賃貸生活であれば安いマンションに引っ越すという選択ができますが、マイホームを購入している場合、ローンの返済を続ける必要があり、一時的に収入が減少するキャリアの選択ができなくなってしまいます。
住む場所が限定される
日本の社会保障制度が傾き、「海外で働く」という選択を迫られる。人口減少に伴う、地方都市の過疎化が進行し、「地方都市から都会に移住する」という選択肢が現実味を帯びてきた場合に、マイホームを購入していると身動きがとれません。自分の働く場所が変えられないというのは、今後大きなリスクとなるでしょう。
特に地方都市においては、住む場所が限定されてしまうことの潜在的なデメリットが大きくなります。基本的にマイホームを購入した人は、老後までその土地に住むことを目的としているでしょう。そのために長期のローンを組んでマイホームを購入します。しかし、地方都市で住む場所が固定されてしまうと、その地方都市にある医局の支配下に置かれてしまいます。医局の人事を無視した働き方がしにくくなります。仮に医局の意向に反した行動をとるとしたら、働く場所が非常に少なくなってしまいます。これは、大都市であれば、複数の医局が同じエリアで競合しているので問題がありませんが、地方都市では、大抵の場合、一つの地域を一つの地方大学が管理しています。その中で、医局の意向に反した行動をとるのは、精神的にきついと思われます。
医局の意向に従うことになると、医局人事での転勤を受け入れることになります。そうなると、せっかくマイホームを購入したばかりなのに、意図しない地域に転勤を命じられて、単身赴任になってしまう可能性があります。医局の人事に従うということは、転勤を受け入れるということです。自分はマイホームに住みたいけれど、医局から地方に転勤を命じられると、自分が単身赴任することになるでしょう。そうなると、マイホームを購入したがために、マイホームに住む家族を守るために、自分が単身赴任するという、悪夢に悩まされます。逆に賃貸生活であれば、キャリアの変更に伴って、いつでも移動が可能になります。
人口減により不動産の資産価値が減少する可能性
昔の日本では、就職したらできるだけ早く結婚して、長期の住宅ローンを組み、それを定年までかけて返済するというのが合理的でした。それは、マイホームの資産価値が右肩上がりであったため、購入から10年、15年経つとマイホームの資産価値も右肩上がりに増加していたためです。しかし、今後日本の人口は減少することが運命づけられており、それに伴って日本の多くの都市においては、不動産価格が減少する可能性が高くなっています。マイホームを購入することに合理性があるとしたら、その前提として、購入したマイホームの不動産価格が、ほぼ確実に上昇する場合だけです。マイホームの不動産価値が上昇するのであれば、低金利のうちに借金をして、マイホームを購入して、不動産価格が上昇したら、古くなった家を売却して、得た利益で新しい家を購入するのが合理的な判断になります。しかし、今後人口が急激に減る日本において、確実に不動産価格の上昇するエリアにマイホームを購入することは至難の技だと思います。不動産のプロならまだしも、初めて家を購入する素人にそのような目利きができるとは到底思えません。
今後医師の給料が下がる
「少子高齢化により社会保障費に抑制圧力が加わる」といったイベントにより今後医師の給料は現状維持ないしは低下する可能性が高いと言えます。
また、(自由診療を除く)日本の勤務医と開業医は全て、準公務員という性質を持っています。その理由は、国の定めた保険診療の中で働いているためです。不景気の時代において、起業の業績が低下するとサラリーマンの給料は下がりますが、準公務員である医師の給料は、相対的に高値安定であったといえます。しかし、今後の日本で、社会保障費に抑制圧力が加わると、準公務員である医師の給料が下げられる可能性は十分にあるといえるでしょう。
マイホームが賃貸より得!という短絡的な考え
「(長期の)住宅ローンを組めば、賃貸マンションより月々に支払うお金(返済額)が少なくなる。だから得」というのは、マイホーム信仰を支えてきたロジックですが、明らかに間違っています。というのも、返済期限を長くして、月々の返済額が下がったからといって、トータルの返済額が下がるわけでもなく、ましてや、不動産価値が上昇するわけでもありません。むしろ高額なマイホームを購入し、月々の返済額を低くするロジックの裏には、「長期返済により、ローンの利息が増える」という事実が隠れています。
その他にもマイホームを購入するのは賃貸より得!という不動産会社のセールスポイントはいくつかありますが、多くは間違っています。
時代の変化が大きく、かつスピードも早くなった
かつて、医師ほど安泰な職業は無いとされてきました。その前提が通用しなくなる可能性が次第に高まっています。
1医師過剰時代の到来
2少子高齢化により国民皆保険制度が崩壊するリスク
3人工知能(AI)の急速な開発と普及
今後20年〜30年という長い期間、今と同じ給料がもらえるという保証はどこにも存在しません。これは、開業医であっても同じです。
まとめ
結婚して家族ができたらマイホームを購入する。これは、高度経済成長期には正しい選択肢でしたが、現在では、医師であったとしても、かなりリスクの高い選択肢であると認識しておきましょう。