医師のアルバイト収入を合同会社などの法人の所得にする
実は、一昔前から、医師のアルバイト収入を合同会社などの法人収入にするというロジックで節税ができないか?と考える医師はたくさんいました。例えば、本業の勤務先から1000万円の収入があったとします。毎週当直のアルバイトをして、年間300万円のアルバイト代を稼げたとします。通常、本業の1000万円とアルバイト代の300万円は合算されて、所得税などの税金が課せられます。日本は累進課税制度ですから、アルバイト代金の300万円に対しては比較的高額の税率が課せられます。
しかし、この300万円を、自分の保有するマイクロカンパニー(合同会社)の事業所得にできるのであれば、それほど高い税率は課せられません。それ以上に、法人の事業所得になれば、サラリーマン(勤め人)の属性ではできない、自営業者としての節税が可能になります。この節税により、利益をさらに圧縮して、納める税金を抑えるというのが目的です。
麻酔科フリーランス医師は、ほとんどの収入がアルバイト収入になりますし、アルバイト収入で2000万円を超える人はザラにいます。これを法人の収入にできれば、自営業者のメリットを最大限に発揮して、節税し放題です。
アルバイト代を法人の事業所得として節税するスキームはアウト
結論からいうと、このスキームは、法廷の場で争われた結果、棄却されてしまいました。
外部リンク 麻酔科医への報酬は給与所得か事業所得か
平成24年9月21日、麻酔科医師が手術等を行った際に 病院から支払いを受けた収入について 事業所得にあたるか給与所得にあたるかで争われていた案件で、 東京地裁は給与所得にあたるとの判決を下しました。
そもそも何故支払ったお金が給与かそうでないかという争点で裁判が行われるかというと、 給与としての支払を避けた方が支払う側にも受け取る側にもメリットがあるためです。
支払う側(病院側)のメリットとしては、給与を避けて外注の扱いをすることで、 仕入税額控除が増加するため消費税の納付額が減少し、 また場合によっては源泉徴収の手間が不要になることもあります。
逆に支払を受ける側(勤務医)としては、 事業所得にすることである程度自由に経費をつけることが出来るため、 所得税の納付額を減らすことが出来ます。
また、社会保険に関して言うと、場合によっては病院としても負担がなくなる上に、 貰う側(勤務医)の社会保険負担もなくなり手取りが増加する可能性があり、 双方にとっていい方向に働くこともあります。
この案件で病院からの支払を事業所得として計上するには、 麻酔科医が勤務医としてでなく、独立した別事業の医師として 治療を行ったという扱いをされなければなりません。
ポイントとなるのは以下の通りです。
1)病院からの場所的・時間的拘束があるかどうか
2)病院の指揮・監督下に置かれているかどうか
3)独立的に業務を行っているかどうか
麻酔科医側としては、 専門性の高い業務である以上病院側からの指揮命令を受けることはなく、 場所的・時間的拘束がなされるような契約もなく、 独立して麻酔科医業を行っているため、 支払われたお金については事業所得であると主張しました。
これに対し東京地裁は、実際に各病院での麻酔手術等の実施状況を鑑み、 麻酔科医の行う業務から生ずる費用は各病院側が負担していること、 また麻酔業務を行う対象や場所・時間等について病院側の命令があったこと、 更に病院で派遣医出勤簿に記録されて勤務時間が管理されていたことなど、 実際の扱いに即して判決を下しました。
基本的に税務署等も書類の内容というよりは、 「実際どのように扱われているのか」に着目していることが多いです。 この麻酔科医の場合は確定申告をした際に指摘されたとのことです。
まとめ
実際に、今回紹介したような判例がでてしまうと、このやり方は諦めるべきだと思います。自分の解釈で問題ないと思っていたとしても、税務署の判断は今回の判例に従って、くだされます。過去にさかのぼって、追徴課税されますから、くれぐれもご注意ください。