医師を取り巻くブルーオーシャン
医療行為を補助する人的ないしは物品的サービス、機器提供、集患支援サービス、人的支援から食料品・服飾・電子機器・文房具に至るまであらゆるものが医療業界で大規模な予算で運用されている。単価100円の小物販売から数億の医療機器開発まで、ビジネスチャンスの大海原である。
しかも、医師には本業を支えるための様々なビジネス資源が集約しており、それらに相乗りするだけで生産力・広報・販路に至るまで新規ビジネスに必要な資源はほぼ全て利用可能な環境にある。さらにスモールビジネスを始めるための初期資本も容易に調達可能な上に、医療界は参入障壁によって狩場が守られている。ブルーオーシャンがさらに防波堤で仕切られ荒波が入って来ず、相乗り無料の釣り船が運行されていて、よそ者が入って来ないように国が周囲を警備してくれている状態だ。ボケっと見ていられる方がどうかしている。
ただ、そのような風景がみえるようになるためには前述の経験値を積まなくてはならない。医師は何かに価値を見出してマネタイズするような世界と隔絶しているため、この経験値を積むのは少々大変なようだ。
医師だけが気づき得るビジネスターゲット
医療界隈で新しいスモールビジネスを思いつくためのヒントを1つ提供しよう。まず医療業界では「良いものを作れば売れる」という幼稚な幻想は捨てるべきだ。形があって、なおかつ良いもの、というものは莫大な資本と生産手段を要求する。例えばなんでもいいから目に付いた小物を手に取ってみよう。それを作るためのコストを想像してみよう。単価が100円なら、それと同じものを作って売ろうとすれば必要な初期資本は1000万を超える。それほどまでに生産手段の獲得というのは難しいのだ。素人がモノを作って売るビジネスをしたいのならば、家内制手工業しかない。ワンオフに価値をつけて売るのだ。スタートアップはそれしかない。オススメはしないが。
では、何をオススメするかというと、医療系ではストレスの消化をマネタイズしやすい。解消ではない、消化、溶かすサービスを作り上げるのだ。医療業界では常に大きな経済的力学が働いている。患者の治療、スタッフの作業、物品の運用、研究など、どれも巨大なエネルギーを持ったプロジェクトがリソースを取り合いながら稼働している。巨大な大蛇が数匹絡み合って団子のようになっている絵を想像してほしい。この大蛇が蠢くたびに鱗同士がギシギシ巨大な摩擦エネルギーを溜め込んでいる。一見動いていないように見える部分には巨大なストレスが生じており、がんじがらめになって動けなくなっている。実際にはこの巨大なストレスは人的リソースの奪い合いという形で釣り合っている。人的リソースとは、失礼ながら特殊能力を持たない労働者にとっては時間の問題に他ならない。医療業界の人間は、ほぼ全員が「自分の置かれた時間的な余裕のなさを解消できれば良いのに」と思っている。ある局所的なストレスの発生要因を構造解析し、溜め込んだストレスを溶かしてやる。医療人はこの価値には喜んでお金を払う。欲しいものなんて無いのだ。今困っているこの状態をどうにかして欲しいのだ。マネタイズのチャンスは、仕事の流れの淀みにある。徹底的に人の動きを観察しよう。絡まっている蛇が、スルスルと動き出す姿をイメージし、その時の人の動きを想像しよう。そのイメージの中での彼らの「動き方」、「持っているアイテム」が提供すべきサービスだ。医師に貯まる経験値とは、このストレスフリーにプロジェクトが稼働している具体的イメージだ。ビジネスマンとしての医師のキャリアとは、これをどれだけたくさん貯め込んでいるかに尽きる。この経験だけは医療業務の全てのハブとして機能している医師以外には蓄積できない財産であり、徹底した参入障壁に守られている。医師の直感では成り立つと確信できるビジネスプランであっても、医師以外には誰にも理解されない。従ってスタートアップ資金獲得には苦労するが、逆に盗まれることもない。キャリアのある医師以外にサービスが稼働する想像ができないからだ。
マネタイズにはサービスの商品化が必須
ターゲットエリアが決まったらマネタイズの方法論が必要だ。かといってストレスを肩代わりするビジネスは愚行だ。労働力の代替はビジネスでは無い。ストレスを消化してしまうサービス作りにこだわろう。モノを作るのなら、この部分でワンオフプロダクトを作製し、生産力があるなら自分で受注し、無いなら仲介マージンを回収しよう。このタイプのビジネスは「困っている」というニーズをスタートにしているため、マネタイズに対するバッシングがほとんどなく、場合によっては感謝されることすらある。この小さな成功を吟味して一般化し、パッケージにしよう。サービスは再生可能なパッケージとなった時、安定した「商品」の顔つきになる。ちなみに、これを経営権に抵触するレベルで大規模に行うのが企業コンサルタントだ。いかな優秀なコンサルでも、困ってない企業に呼ばれることはない。ニーズから始めることはビジネスの鉄則であろう。